子どもたちが小さかった頃、家族で那谷寺を歩いていたときのことです。
境内のどこかから、濃厚で甘やかな香りがふわっと流れてきました。
その香りは「芳輪 堀川」というお香。
確か2500円くらいしていました。
今思えばそこまで高価ではないのに、
“自分のために2500円のお香を買う”という発想が、あの頃の私にはありませんでした。
子どもたちに買うお守りは迷わず出せるのに、
自分のものはぜいたくだと思っていました。
あれから二十年。
今では芳輪 堀川は、いつもそばにあります。
時間の区切りに焚いたり、
少し間があいた時間に煙を眺めたり、
香りが部屋に広がるのを静かに楽しんでいます。
あの頃の私が聞いたら、
「え、2500円のお香を?自分のために?」
と驚くかもしれません。
当時はお香を焚いて楽しむ余裕なんてなかったね。
あの頃の私と、今の私が、
同じ香りの中でゆっくりつながっていくような感覚があります。
深刻な話ではなくて、ただの小さな変化です。
でも、その小さな変化が、
暮らしを少しずつ軽くしてくれるんですよね。
煙がゆっくり立ち上がるのを眺めながら、
「二十年前の私、よく頑張ってたよ」と
静かに声をかけたくなりました。

